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タワマンの街からオフィス街へ

第2の再開発が進む東京・豊洲

浅野夏紀浅野夏紀

2019/10/30

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造船の街・エネルギーの拠点からタワマンの街へ

ららぽーと豊洲

東京の湾岸地域・豊洲の“第2再開発”が進んでいる。
野村證券が、豊洲で建設中の大型オフィスビルに仮移転することを決定。三井住友フィナンシャルグループ傘下のセディナと三井住友カードも、豊洲駅前の三井不動産による大型開発の豊洲二丁目駅前地区第一種市街地再開発事業(ベイサイドクロス)に、東京本社を移転する。移転時期は2021年春で、およそ2000人の社員が豊洲に移る。移転完了時までにビル持ち分の取得も検討している模様だ。
再開発される「ベイサイドクロス」の敷地面積は約2万7800㎡。そこに店舗、ホテルからなるA・C棟とオフィスのB棟の3棟のビルから構成され、地下鉄・有楽町線とゆりかもめの豊洲駅と直結する。
三井不動産はこのベイサイドクロスについて「湾岸エリアにおける新たなランドマークで豊洲エリア最大規模のプロジェクト」とPR中だ。なかでもA棟。C棟は06年にオープンした隣接する「アーバンドック ららぽーと豊洲」の機能を拡大する「第二ららぽーと」的な商業ゾーンになり、集客力が強化される。

「がすてなーに ガスの科学館」

加えて、このベイサイドクロスは国土交通省が進める新技術や官民のデータを活用して、都市問題を解決する「スマートシティモデル事業」として選定されている。
三井不動産は豊洲駅前を舞台に、日本橋室町に次ぐ自力でガスを使った電力やエネルギーを供給できる街づくりとして進めており、自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合でも事業継続するBCP(Business Continuity Plan)の2番目の事例としようとしている。こうした開発が進む豊洲には、政府の年金のデータ等を扱うNTTデータの本社、日本ユニシスの本社もあることから「停電させられない街」となり、IT企業の進出も徐々に進む。

タワマンのイメージが強い豊洲だが、いまや大型オフィスビルが立ち並び、オフィス街に様変わりしている。実際、朝夕の通勤時間帯の豊洲駅はオフィスワーカー人の波が住民の数よりも多くなっている。
かつての豊洲はIHIの造船所があり、ドッグには海上自衛隊の護衛艦も停泊していた。また、電力・熱源を供給する東京電力と東京ガスがあるエネルギーの拠点でもあった。再開発が始まると、東京電力は豊洲を新規事業のデータセンターの拠点にしようと、データセンター事業の子会社「アット東京」を設立し、豊洲に本社を置いた。さらに変電所を併設するビッグドラムや新豊洲キューブにJPX(東証・大証)を誘致までした。しかし11年の東日本大震災による福島原発事故の賠償金等の工面のため、東京電力は豊洲の資産・土地をセコムや三井不動産、東京ガス、芝浦工大などに売却する。これら売却された土地には芝浦工大の「豊洲キャンパス」、その隣地1万㎡は、12年に三井不動産レジデンシャルなど大手デベロッパー6社が分譲するツインタワーマンション「スカイズタワー&ガーデン」が建設されている。かつては再開発の中心的な役割を果たしてきた東京電力だが、いまやその存在感は薄い。

街の顔を変え、住民も入れ替わり

豊洲が湾岸の高級住宅エリアと世間でみられるまでには20年という時間を要している。いまでは外車の販売店も目立ち、「高級車」が売れる街の代表だが、昔は豊洲をいう「実名では売れない街」だった。
造船所と発電所、ガスタンク、倉庫や工場地帯だった豊洲の本格開発が始まったのは1990年代後半のこと。小泉政権の規制緩和によって都市の建物の高さ制限や容積率が緩和され「都市の構造改革」が始まるまでは、豊洲という街は「安さと所在不明っぽいネーミング」を武器にしていた。
たとえば、豊洲4丁目界隈の「東京フロントコート」、「プライヴブルー東京」などマンション名前から所在地はわからない。しかも、中層のフロントコートは2004年ごろ、坪単価で150万円台の安さで売り出された、一戸あたりの敷地は100㎡近いのに4000万円台で販売される新築物件もあったが、その競争率は2~3倍と低かった。広い中庭の平置き駐車場が1台7000円、価格、坪単価は現在の豊洲相場の半値の水準だった。
しかし、時とともに再開発が進み、こうした中古物件の価格が上昇する。そして、それを売却して「ららぽーと豊洲」の隣に立地する中古億ションの「アーバンドック パークシティ豊洲」や隣駅の月島駅周辺のタワマンなどの「格上」にマンションに移り住んだ住民も多い。中にはこうしたマンションころがしを2~3回も繰り返したツワモノもいる。イメージ的に豊洲に引っ越すのに引け目を感じる時代に、「名前隠し物件」を買った住人が儲けたわけだ。
こうしたツワモノたちが抜けたいまでは「豊洲隠し」だった格安物件は、中国人ほか外人が購入して住んでいる。超高層ではない「豊洲隠し」の物件は、一戸あたりの土地の持ち分比率がタワーマンションの5倍~10倍前後もあるようで、そのあたりが不動産(地面好き)の中華系にアピールしている。
来年の五輪の年にはビルの相次ぐ竣工で、豊洲ワーカーはさらに増殖。豊洲のオフィスへの通勤者は、近場の豊洲の物件を探すため、アフター5には豊洲駅周辺に急増した不動産仲介店に押し寄せている。20年モノの中古物件も出始めており「豊洲隠し」の物件にも2度目のブームが起きそうな気配も感じさせる。それは豊洲に住むファミリースタイルが、夫は働き、妻は専業主婦というものから、共稼きによって、2~3倍稼ぐパワーカップルへと変わり、彼ら彼女たちは湾岸居住を好み、これが追い風になっているからだ。豊洲の2度目の再開発は世代交代も促している。

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この記事を書いた人

経済アナリスト・作家・不動産小説家

経済アナリスト・作家・不動産小説家。 1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

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