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住民が小池知事を相手に住民訴訟

晴海の選手村の「地価を10分の1」に大幅値引きのカラクリ

浅野夏紀浅野夏紀

2019/10/07

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東京五輪・晴海の選手村の地価は「西多摩郡檜原村」と同じ!?

建設が進む晴海の選手村

選手村に使われた後にマンション群となる「晴海フラッグ」は築地市場跡地と豊洲市場の中間に位置し、東京駅から4キロほどの好立地で、7月に発売開始された。マンション 5632 戸のうち、分譲 4145 戸の予定価格は 90 ㎡の 3LDK で 8000 万円程度。坪単価は 300 万円前後だ。

このマンションが買いかどうか話題になったが、第1期分譲分は平均倍率2.57倍、最高で71倍という部屋もあって、上々の人気で終わった。8月の首都圏のマンション発売数の何と3分の1は晴海フラッグが占めるという超大型物件で、8月の首都圏全体の発売は前年同期比で21%も増えたのだ。

そんななかで9月13日、このマンションをめぐる住民訴訟の大詰めを迎えていた。
裁判になった原因はこのマンションの地価は、周辺の地価にくらべて10分の1以下の激安価格で買われたものだったからだ。

東京都から三井不動産など開発業者11社への2016年末に都有地を売った際の価格だ。その広さは13.4ヘクタール、東京ドーム3個分の土地が129億6000万円。1㎡あたりの単価は9万6784円に過ぎない。

選手村の近隣の晴海3丁目の 16 年の 公示地価(商業地)は、132万円ほどだから、近隣の地価の10分の1以下で、割引率は9割引を超える。

9月13日にあった住民訴訟の口頭弁論では、原告側は「五輪の選手村に使う特殊要因を考慮しても土地価格 は1653億円が妥当とし、129.6億円の販売価格との差は1500億円規模」と指摘。 払い下げ価格は西多摩郡檜原村の地価と同水準と言えるほど安いと、不当な廉売を訴えた。

なぜ、こんな激安販売ができたのか。
そのカラクリは、複雑で込み入った街区の再開発に多用させる「市街地市街地再開発事業」という制度をわざわざ、地主の都(1者)だけが持つ広大地の「再開発」に持ち込んだのだ。

結果として、選手村開発は東京都(小池百合子知事)が、用地の地主、再開発許認可のトップ、そして再開発事業の施行者という異例の「一人三役」を演じた。

さらに激安にするためのトリックは続く。市街地再開発事業による土地の処分には、近傍類似の土地等の価格を考慮して定める相当の価格で縛る規定(都市再開発法80条)がある。だが、権利者全員(晴海の場合は東京都だけ)の合意があれば、任意の価格で売買できる。この規定を使って、都は法外な安値販売を強行、売った後はさっさと再開発事業から退出してしまった。

しかも都議会や都の財産価格審議会も安値販売を問題にしていない。さらに都は、選手村の基盤整備に400億円以上を投入した上、選手村の家賃も負担するため、差し引きすると売却した東京都の側が実質的には大赤字なのだ。

住民訴訟が起こったからだろうか。都と事業者は、五輪後のマンション分譲事業の収益をさらに分け合うことで合意した。堅調な不動産市況を受けて当初想定より高く売れそうだということで、高く売れた分の1%(28億円)を超える分については、都と業者で半分ずつ分け合うことになった。

都関係者によると、これは200億円を上回り、都に入る分も100 億円を超える可能性がある、という。だが、仮に実現したとしても、これは安値販売分を取り戻すというものではない。そもそもの1500億円の値引きに対して200億円というのは間尺に合う取り引きといえるのだろうか。

小池都知事なっても、結局は何一つ変わらず

建設が進む晴海の選手村

加えて、都が用いた開発法という不動産鑑定法も用いて払い下げ水準を激安にしたうえで、開発業者(デベロッパー)は、土地の代金支払いと所有権移転の時期を五輪後に先延ばしさせ、これにより金利負担が軽減され、固定資産税の課税期間もかなり短縮できる。五輪があってすぐには売れないとはいえ、激安値引きのうえに至れり尽くせりのこんな恩恵もありなのか。

16年7月、小池知事は、前任の舛添、猪瀬、石原の各知事が進めてきた築地市場の豊洲移転などを争点にして当選。豊洲市場の土地取得費も建設費も巨額だったため、「立ち止まって考える」として当選後は移転を一時中止した。

その16年末に契約した選手村再開発事業も、豊洲案件と同様に、開発・建設業者に有利な条件がそろっていた。前任者の舛添知事の時代に「このウルトラD」ともいえるスキームは出来上がっていたのだが、契約調印者の小池知事は、中身をよく検討せずに、前任者時代に都の都市整備局から上がってきたメニューをただ「丸呑み」したようにも見える。少なくとも原告側はそう見ている。

住民訴訟を通じてこれまでは表に出てこなかった「晴海ブラック」な中身が徐々に透け始めたというわけだ。そもそも東京都が、建設コンサルに都有地開発スキームを考えさせるなど大事な開発行政の根幹を民間に業務委託(丸投げ)するようなことは茶飯事のこと。そして、選手村も受注先11社などには都の技術職員の有力な天下り先も含まれている。

選手村訴訟で被告となった小池知事側は、前任者が作った開発手法の正当性を主張するばかりだ。小池知事は開発事業主導の都政改革のために知事になったのではなかったか。彼女は五輪会場の建設費の肥大化、神宮外苑の高層化など競技場周辺のスピード開発も許した。市場移転の一時中止も、ただ混乱させただけで終わったように見える。

つまり、中途半端な思い付きで都政を引っかき回しただけで、それ以外は過去の知事らと大差も小差もないのではないか。20年7月の知事選までに、彼女が誇る4年間の実績・手腕を改めて厳しく検証する必要がある。

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この記事を書いた人

経済アナリスト・作家・不動産小説家

経済アナリスト・作家・不動産小説家。 1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

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